適格機関投資家等特例業務 とは、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)で通常行う手続きを免除される特例の業務となります。具体的には、ファンドの募集や運用をするマネージャーが第二種金融商品取引業、投資運用業などの登録を必要とすることなく運用を行うスキームをいいます。
適格機関投資家は、金商法の扱いにおいてはプロ投資家とも呼ばれ、英語ではQualified Institutional Investorから頭文字をとってQIIと表記されることも多くあります。
第二種金融商品取引業等への登録ですら通常数ヶ月はかかります。しかし、適格機関投資家等特例業務の場合は届出だけであり審査がないため、数週間程度で事業を開始することも可能になります。 また、書類作成の手間も比較的少ないことから、ファンド設立にかかるコストもリーズナブルに抑えることができます。
ただし、当該特例業務を適用する要件として、①適格機関投資家が1名以上いること、②一般投資家が49名以下であることの2点が挙げられます。適格機関投資家を1名見つけることが困難ではありますが、一人あれば比較的小規模でも簡単にファンド設定が可能となるため、非常に一般的に活用されるスキームとなっています。
この記事では、金商法に伴うファンド関連の規制と、適格機関投資家等特例業務(いわゆる「QII特例」と呼ばれるもの)の届出に関する実務上の留意点と、届出内容の説明を解説します。
金融商品取引業の4分類
金商法は、証券市場における有価証券の発行、売買その他の取引について定めた法律です。2006年に証券取引法が全面的に改正され、金融先物取引法など他の法律も統合されて金融商品取引法となりました。
金商法における金融商品取引業は、4つに分類されます。
- 「第一種金融商品取引業」は、証券会社など証券取引
- 「第二種金融商品取引業」は、ファンドなど金融商品の販売
- 「投資助言・代理業」は、投資の運用アドバイスのみ
- 「投資運用業」は、ファンドなどの運用
それぞれの業務を行うためには登録が必要であり、開業までの最低の期間は、比較的容易な投資助言であっても3か月程度を必要としますし、投資運用業になれば通常2年程度の期間を必要とします。登録が認められるまでの事前審査と、その後の正式な申請手続きに総統の期間が求められるのに加えて、専門家への手続きの報酬、自主規制団体の会費や登録免許税などで、多額の費用がかかります。審査期間の間は開業をすることはできない状況になりますので、その人件費を支払う必要があります。
金融商品取引業の資格を獲得するのは、ハードルが高いのが実情です。
出資者として見込んでいた顧客の投資意欲も、登録までの準備期間が長期に渡れば、当初とは変わってしまう場合が想定されます。さらには予定している事業自体も、事業の前提となる市場環境、事業環境が大きく変わってしまう可能性があります。
適格機関投資家等特例は、新規にファンドを立ち上げようという事業者にとっては、とりあえず投資家を囲い込める重宝なスキームです。
適格機関投資家等特例業務 の2ポイント
そこで投資家からの強い要望で作られたのが、適格機関投資家等特例業務になります。
何といっても、金融商品取引業者としての登録は不要となります。
次の二種類の投資家を相手方とすることなどを要件として、当局への事前届出のみで業務(ファンド持分の販売・勧誘、ファンドの運用)を金融庁に提出する必要があります。ただし、審査はないので手続きは重くありません。
ポイント① 適格機関投資家 1名以上
適格機関投資家等特例業務届出者は、基本的に適格機関投資家(いわゆるプロ投資家)を相手に業務を行う者になります。
いわゆる、プロ投資家とされる適格機関投資家は、具体的には
- 第一種金融商品取引業者(証券会社等)
- 投資運用業者
- 投資法人
- 銀行
- 保険会社
- 信用金庫
- 金融庁長官に届出した個人(保有有価証券残高10億円以上かつ証券口座開設後1年経過) 等
なお、定義として適格機関投資家とは、有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者として内閣府令で定める者をいいます。
ポイント② 適格機関投資家以外 49名以下
適格機関投資家以外は、一般の個人投資家のような誰でも良くはありません。以下のような制限があります。
具体的には、49名以下の投資判断能力を有すると見込まれる一定の者とも言えます。
- 国
- 地方公共団体
- 上場会社
- 個人(投資性金融資産1億円以上かつ証券口座開設後1年経過) 等
そのスキームは以下のイメージになります。
他にも、自己募集・自己運用の原則があり、ファンド運営者が自ら募集を行い、自ら運用することが要件とされます。
届出であって審査が緩いため、第三者に依頼せず、自ら投資家を集めることで、直接的な管理と責任を持つことが求められています。これにより、資金の流れや管理が透明化され、信頼性が確保されます。また、自己運用では、他の業者に運用を任せるのではなく、運営者自身が投資先を選び、リスク管理を行います。これにより、運用方針に一貫性が生まれ、責任が明確になります。
金商法での 適格機関投資家等特例業務 とは
原則としては、自己で投資資金の募集を行う者は、第二種金融商品取引業の登録を、また自己で運用を行う者については、投資運用業の登録を、金融庁の各地方ごとの財務局に対して行う必要があります。いわゆるファンド持分の自己募集や集団投資スキームの自己運用は、金商法の規制対象となっているのです。
それでは手続きが大変だ、という国内海外の小規模金融業者からの要望で、一定の要件を満たす集団投資スキーム持分の私募に係る業務や自己運用に係る業務は、適格機関投資家等特例業務として、金融商品取引業の登録義務の除外対象となっています(金商法第63条参照)。
金商法63条では、通常の金商法で求められる第29条及び第33条の2の規定が、適格機関投資家等特例業務となれば適用されないとしています。
(適格機関投資家等特例業務)
次の各号に掲げる行為については、第29条及び第33条の2の規定は、適用しない。
一 適格機関投資家等で次のいずれにも該当しない者を相手方として行う第2条第2項第5号又は第6号に掲げる権利に係る私募
イ その発行する資産対応証券を適格機関投資家以外の者が取得している特定目的会社
ロ 第2条第2項第5号又は第6号に掲げる権利に対する投資事業に係る匿名組合契約で、適格機関投資家以外の者を匿名組合員とするものの営業者又は営業者になろうとする者
ハ イ又はロに掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者
二 第2条第2項第5号又は第6号に掲げる権利を有する適格機関投資家等から出資され、又は拠出された金銭の運用を行う同条第8項第15号に掲げる行為
金商法 第63条
第29条及び第33条の2の規定とは、
- 第29条の金商法業者としての登録
- 第33条の2の資産運用業の登録
金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができません。
金商法では、募集又は私募の業を行う者は金融商品取引業者(第二種金融商品取引業)の登録、出資された財産の運用を行う者は金融商品取引業者(投資運用業)の登録です。
金融機関は、次に掲げる行為のいずれかを業として行おうとするとき、又は投資助言・代理業若しくは有価証券等管理業務を行おうとするときは、内閣総理大臣の登録を受けなければならない。
一 書面取次ぎ行為
二 前条第2項各号に掲げる有価証券又は取引についての当該各号に定める行為(同条第1項ただし書に該当するものを除く。)
三 デリバティブ取引等のうち有価証券関連デリバティブ取引等以外のもの又は第2条第8項第5号に掲げる行為のうち第28条第8項第7号に掲げるもの以外のもの
四 第2条第8項第7号に掲げる行為
金商法 第33条の2
この2つの条文を合わせると、適格機関投資家等特例を届け出れば、金商法上のファンド持分の販売・勧誘、およびファンドの運用の規定は、適用しない、となります。
適格機関投資家等特例業務 の届出事項
個人や会社名、事務所の住所や運用するファンドの種類などを届け出ます。適格機関投資家等特例業務を行う営業所又は事務所の名称及び所在地のほか、他に事業を行つているときは、その事業の種類もあります。
その他内閣府令で定める事項は、ホームページアドレスや、ファンド名称、種別、内容などになります。
具体的な届出事項は金商法第63条第2項に列挙されています。
適格機関投資家等特例業務を行う者は、あらかじめ、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を内閣総理大臣に届け出なければならない。
一 商号、名称又は氏名
二 法人であるときは、資本金の額又は出資の総額
三 法人であるときは、役員の氏名又は名称
四 政令で定める使用人があるときは、その者の氏名
五 業務の種別
六 主たる営業所又は事務所の名称及び所在地
七 適格機関投資家等特例業務を行う営業所又は事務所の名称及び所在地
八 他に事業を行つているときは、その事業の種類
九 その他内閣府令で定める事項
金商法 第63条第2項
適格機関投資家等特例業務 の提出書類
特例業務を行う場合は予め、「適格機関投資家等特例業務に関する届出書」等を提出します。
原則としてgBizIDを利用して「金融庁電子申請・届出システム」経由です。
新たに業務を行おうとする時に必要なのは、3種類で、適格機関投資家等特例業務に関する届出書、誓約書、履歴書になります。
残りの書類は該当すれば届出後遅滞なくとなります。
届出内容 | 提出時期 | 条文 | 記載例 |
適格機関投資家等特例業務に関する届出書 | 新たに業務を行おうとする時 | 【法第63条第2項】 | 届出書の記載例 |
誓約書 | 新たに業務を行おうとする時 | 【法第63条第3項、内閣府令第238条の2】 | 誓約書 記載例 |
履歴書 | 新たに業務を行おうとする時 | 【内閣府令第238条の2】 | 履歴書 記載例 |
適格機関投資家の全てが投資事業有限責任組合である場合に提出する書面 | 届出後遅滞なく | 【内閣府令第238条の2】 | 投資組合の記載例 |
密接関係者及び知識経験を有する者からの出資金総額を証する書面 | 届出後遅滞なく | 【内閣府令第238条の2】 | 出資金の記載例 |
事業年度ごとに事業報告書の義務
適格機関投資家等特例業務では、毎事業年度経過後3か月以内に提出する必要があります。平成28年3月1日以後に開始する事業年度から変更となりました。なお、外国業者については、提出期限延長の承認制度があります。
適格機関投資家等特例業務 は 行政書士 が 届出代行 します
2024年の欧州、英国、米国は徐々に政策金利の引き下げに取り組み、いわゆるソフトランディングがうまく機能して株式や商品市場も高値を維持しています。ウクライナやイスラエルでの紛争も小康状態となり、投資環境は落ち着いています。
ニッチな市場を取りに行く小規模な集団投資スキーム(ファンド)への需要が高まり、適格機関投資家等特例業務(QII特例)への依頼も安定的に推移しています。
運用環境が好調な時には、余裕資金を小口に振りまいて収益の多様化や安定化を求める傾向にありますので、この機会に外部ファンドの販売や、他社ファンドの運用再委託から飛躍の一歩を低コストで始める機会にしてはいかがでしょうか。
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