海外で結婚した日本人は、日本へ帰国しなくても、婚姻の届出(外国方式で成立した婚姻の報告)、戸籍謄本の取得、旅券の別名併記を進められる場合があります。一方で、外国籍配偶者の姓を名乗ること、戸籍上の名を短くすること、旅券に外国式の氏名を併記することは、それぞれ別の制度です。
この記事では、海外在住の日本人が米国などで結婚した場合を念頭に、戸籍謄本取得から婚姻届、氏・名の変更、パスポートまでを整理します。
最初に確認すること
- 婚姻は、現地法上すでに成立しているか
- 婚姻成立日はいつか(原則3か月以内の届出期限に注意)
- 変更したいのは「氏」か「名」か、旅券上の併記だけでよいのか
- 本籍地、日本での最後の住所地、現在の居住州・国はどこか
結論:目的ごとに必要な手続は異なります
| 希望すること | 主な手続 | 申請先・届出先 | 裁判所の許可 |
|---|---|---|---|
| 米国で成立した婚姻を日本の戸籍に記載したい | 婚姻届(報告的届出) | 在外公館または日本の市区町村 | 原則不要 |
| 日本の戸籍謄本を海外で取得したい | 戸籍証明書の交付請求 | 本籍地市区町村(本人請求・代理請求) | 不要 |
| 外国籍配偶者の氏へ変えたい | 外国人との婚姻による氏の変更届 | 市区町村 | 婚姻成立から6か月以内なら不要 |
| 氏名の名を変えたい | 名の変更許可申立て→名の変更届 | 家庭裁判所→市区町村 | 必要 |
| 旅券に配偶者の姓やミドルネームを添えたい | 旅券の別名併記 | 管轄の在外公館・旅券窓口 | 不要。ただし審査あり |
外国で結婚したら、日本の婚姻届は必要ですか?
必要です。外国の法律に従って婚姻が有効に成立した場合でも、日本人の戸籍に婚姻の事実を記載するため、日本側へ届出をします。これは日本で改めて結婚を成立させる手続ではなく、外国で成立した身分関係を戸籍へ反映させる「報告的届出」です。
日本人と外国人が外国方式で婚姻した場合、原則として婚姻成立日から3か月以内に、婚姻挙行地の在外公館または日本の市区町村へ届け出ます。海外から郵送で提出できる場合もあります。
主な提出書類
必要書類は婚姻した国・州、届出先の在外公館又は市区町村により異なります。一般には、次の書類を準備します。
- 婚姻届書(通常2通)
- 現地官公署発行の婚姻証明書の原本
- 婚姻証明書の日本語訳文(訳者の氏名・住所を記載)
- 外国籍配偶者の国籍を証する書類と日本語訳文
- 届出先から求められた追加書類
2024年3月以降、戸籍届出にあたり戸籍全部事項証明書の添付は原則不要です。ただし、戸籍情報が電算化されていない場合など例外があります。届出前に、管轄の在外公館又は本籍地市区町村へ、婚姻証明書の正式名称・必要通数・郵送方法を確認してください。
婚姻届を出せば、外国籍配偶者の姓に自動で変わりますか?
変わりません。
日本人が外国籍の方と結婚しても、日本人の氏は当然には変更されません。
外国籍配偶者の氏を正式な氏として名乗りたい場合は、別途、「外国人との婚姻による氏の変更届」が必要です。外国で婚姻した場合は、婚姻の成立日から6か月以内であれば、家庭裁判所の許可を得ずに市区町村へ届出できます。
もちろん、行政書士による代理申請が可能です。
6か月を過ぎた場合は、家庭裁判所の氏の変更許可を得た上で、市区町村へ氏の変更届をする必要があります。
戸籍上の名を短くしたい場合は、家庭裁判所の手続です
戸籍上の名そのものを変えるには、婚姻届や氏の変更届では足りません。住所地を管轄する家庭裁判所へ名の変更許可を申し立て、許可を得る必要があります。
裁判所が見るのは、「変えたい」という希望だけではなく、変更しないことにより社会生活上の支障が生じているかです。例えば、次のような資料が重要になります。
- 学校、勤務先、銀行、保険、資格証、契約書等で変更予定の名を継続して使用している資料
- 外国の公的書類、学生証、運転免許証等
- ミドルネームを含む戸籍名と、現地での使用名が異なることで生じる具体的な不利益や混乱
- 変更後の名を社会生活上継続して使用する合理性を示す事情説明書
単なる好みや一時的な希望だけでは、許可を得ることは容易ではありません。
海外在住者の申立先
海外に住居所がある日本国籍者は、原則として日本における最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。日本に最後の住所地がない、又は不明な場合は東京家庭裁判所が管轄となります。
本人が海外にいても、本人署名の申立書を郵送して進められる場合があります。国内の親族などを連絡先又は書類提出の使者とすることは、事前に家庭裁判所へ相談してください。ただし、国内の人が当然に本人の手続代理人になるわけではありません。裁判所との実質的なやり取りを代理人として行う場合は、原則として弁護士への依頼を検討します。
ミドルネームや外国籍配偶者の姓を旅券に入れる方法
戸籍の氏名を変えずに、旅券だけに外国式の氏名を表示したい場合は、別名併記制度を検討します。
旅券の表示イメージをご参照ください。

別名併記は、戸籍に記載された氏名以外の呼称が社会生活上通用しており、渡航の便宜上特に必要と認められるときに可能となる例外的な制度です。婚姻証明書、配偶者の旅券、米国の公的書類、グリーンカード、出生証明書等で、綴りと使用実態を説明します。
重要:別名併記は正式氏名の変更ではありません
- 戸籍上の氏名は変わりません。
- 別名は旅券面に括弧書きで表示されます。
- ICチップ及びMRZ(機械読取部分)には別名は記録されません。
- 航空券、ESTA、査証は主たる旅券名と一致させる必要があるため、予約・申請前に航空会社や関係機関へ確認が必要です。
海外から戸籍謄本を取得する方法
婚姻届、旅券申請、氏名変更、米国での身分手続などでは、戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)が必要になることがあります。
海外在住者が戸籍謄本を取得する主な方法は、次のとおりです。
- 本人が本籍地市区町村へ郵送請求する
- 日本国内の代理人が、委任状により請求する
- マイナンバーカード等を使い、利用可能なオンライン又はコンビニ交付制度を利用する
- 行政書士へ委任し、必要な戸籍証明書の取得と海外発送を依頼する
広域交付は便利な制度ですが、原則として窓口で本人が請求する制度であり、郵送請求や代理請求には使えません。海外在住者は、本籍地への郵送請求又は日本国内の代理人による請求を検討するのが現実的です。
行政書士への依頼をご検討ください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 海外で結婚したら、日本の区役所へ必ず行かなければなりませんか?
いいえ。在外公館又は日本の市区町村へ郵送で届出できる場合があります。届出先ごとに必要書類・郵送方法が異なるため、提出前に必ず確認してください。
Q2. 婚姻届に戸籍謄本は必要ですか?
2024年3月以降は原則不要です。ただし、戸籍が電算化されていない場合など例外があります。外国方式の婚姻では、婚姻証明書原本、日本語訳文、外国籍配偶者の国籍を示す書面等が中心となります。
Q3. 外国籍の夫・妻の姓を日本の戸籍で名乗れますか?
できます。婚姻成立日から6か月以内なら、「外国人との婚姻による氏の変更届」を市区町村へ提出することで、家庭裁判所の許可なしに変更できます。ただし、戸籍上は一つの氏を選びます。
Q6. 海外在住でも家庭裁判所へ名の変更許可を申し立てられますか?
可能です。日本での最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。郵送、国内連絡先、事情確認の方法は裁判所ごとに異なるため、申立前に家事受付へ確認してください。
Q7. 特定司法書士は、名の変更許可事件の代理人になれますか?
家庭裁判所の名の変更許可事件について、特定司法書士の簡易裁判所における訴訟代理権は及びません。司法書士は申立書類の作成を支援できる場合がありますが、手続代理が必要な場合は弁護士への依頼を検討します。
Q8. 行政書士は何を依頼できますか?
戸籍謄本の代理取得、婚姻届・訳文等の書類整理、届出先への事前確認、海外発送、旅券別名併記に必要な資料整理などを依頼できます。家庭裁判所での手続代理は行政書士の業務ではありません。
Q9. パスポートの別名併記をすると、ESTAや航空券も別名で取得できますか?
注意が必要です。別名はICチップ・MRZに記録されないため、原則として主たる旅券名で航空券・ESTA・査証を取得します。別名を使用する必要がある場合は、渡航先国の制度と航空会社の取扱いを事前に確認してください。
Q10. 海外在住者が戸籍謄本を行政書士へ依頼する際に必要なものは?
一般に、本籍地・筆頭者、必要な証明書の種類と通数、使用目的、本人確認書類、委任状、海外の送付先・希望する発送方法を確認します。事案により、婚姻証明書、親族関係を示す資料、翻訳文等を追加でお願いすることがあります。
行政書士 岡高志事務所で支援できること
海外からの戸籍謄本取得をはじめ、次のような書類面の支援を行います。
- 本籍地市区町村への戸籍全部事項証明書等の請求
- 戸籍の変遷・必要通数の確認
- 婚姻届・氏の変更届の記載支援と提出先の事前照会
- 旅券別名併記のための資料整理
- 戸籍証明書の海外発送、アポスティーユ・公印確認が必要な場合の関連手続の案内
戸籍上の氏名を実際に変更する必要があるのか、旅券上の別名併記で目的を達成できるのかは、現地の在留資格、氏名使用状況、今後の渡航予定によって変わります。婚姻証明書、現在の旅券、変更希望の氏名表記、海外で使用している氏名が分かる資料をご用意の上、ご相談ください。

