2026年9月15日、タクシーアプリのGO、米国の自動運転企業Waymo、日本交通の3社が、2027年中に東京都内で自動運転レベル4による「完全無人タクシー」の商用運行を開始することを目指すと発表しました。
まずは少数の車両から始め、段階的に100台規模まで拡大する計画です。
役割分担も興味深く、Waymoが自動運転技術や車両管理システムを提供し、GOがタクシー業界との連携や配車アプリを担当、日本交通が現場での運行管理や営業所運営を担当します。
ただし、2027年になれば自動的に走り始められるわけではありません。
3社自身も、
道路交通法、道路運送法などに基づく必要な許認可を取得した後に正式なサービス開始時期を決める
としています。
私は行政書士として、日頃からタクシー、ハイヤー、貨物運送、レンタカーなどの許認可に関わっています。
その立場から今回のニュースを見ると、非常に面白い問題があります。
運転手がいないのに、本当に「タクシー」として走れるのでしょうか。
普通のタクシーは「人が運転する」ことを前提にできている
現在のタクシー制度は、当然ながら人間の運転者が存在することを前提に組み立てられています。
タクシーは道路運送法上の「一般乗用旅客自動車運送事業」です。
道路運送法第3条では、
「一個の契約により……乗車定員未満の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業」
を一般乗用旅客自動車運送事業と定義しています。
そして同法第4条は、
一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない。
と規定しています。
いわゆるタクシー事業許可です。
さらに実際にタクシーを運転する人については、道路交通法上、第二種運転免許が必要です。
道路交通法第86条第1項は、
旅客自動車運送事業に係る旅客を運送する目的で運転しようとする者は……第二種免許を受けなければならない。
としています。
一般的なタクシーであれば、
「タクシー会社に事業許可」
そして、
「運転する人に二種免許」
という二つの層があります。
ところが完全無人タクシーには、その「運転する人」がいません。
ここで法律がどう処理したのかが非常に面白いところです。
参考記事:タクシー開業許可取得
AIに二種免許を取らせる制度ではない
一見すると、
「WaymoのAIが運転するのであれば、AIが二種免許を取るのか?」
という話になりそうです。
もちろん、そうではありません。
道路交通法はもっと大胆な整理をしました。
道路交通法第2条第1項第17号は、「運転」を次のように定義しています。
道路において、車両又は路面電車……をその本来の用い方に従つて用いること(特定自動運行を行う場合を除く。)
重要なのは最後の部分です。
「特定自動運行を行う場合を除く」
と明記されています。
つまり、レベル4の一定の自動運転について、
「コンピューターを運転者とみなす」
という制度にはしませんでした。
そうではなく、
そもそも道路交通法上の「運転」から切り離した
のです。
警察庁も、レベル4に相当する「特定自動運行」は道路交通法上の「運転」の定義から除外されており、運転者の存在を前提としない制度であると説明しています。
したがって、
「無人タクシーなのに二種免許を持った運転手がいない。違法ではないか」
という疑問に対する答えは、
特定自動運行として適法に運行する限り、そもそもその車を運転している『運転者』はいない
となります。
その代わりに 自動運転の許認可
運転者がいなくなったからといって、規制までなくなるわけではありません。
むしろ別の許認可制度が登場します。
道路交通法第75条の12第1項です。
特定自動運行を行おうとする者は、特定自動運行を行おうとする場所を管轄する公安委員会の許可を受けなければならない。
つまりレベル4の無人走行を行うには、都道府県公安委員会による「特定自動運行の許可」が必要です。
しかも単に、
「この車は自動運転できます」
と申請すればよいわけではありません。
経路、運行する場所、車両、遠隔監視を行う場所、事故発生時の対応方法などを記載した「特定自動運行計画」を作成して審査を受けます。
これは自動運転車の「車両認証」だけの問題ではありません。
どこで、どの車を、どのような管理体制で走らせるのかという運行そのものが許可対象になる
ということです。
許認可事務として見ると、ここは非常に重要です。
例えば、
東京都内全域を自由に走ります、
という話と、
特定の営業区域・経路・条件の中で走ります、
という話では、審査の前提が変わってきます。
運転手の代わりに「特定自動運行主任者」が登場する
では、完全無人の車両が走行している最中、誰が責任を持つのでしょうか。
ここでも法律は「誰も責任を持たない」とはしていません。
道路交通法第75条の19では、特定自動運行実施者に対して、
- 特定自動運行主任者
- 現場措置業務実施者
- その他の特定自動運行業務従事者
に必要な教育を行うことを求めています。
さらに特定自動運行主任者を指定しなければなりません。
道路交通法第75条の20では、車両を遠隔監視する場合について、
当該特定自動運行用自動車の周囲の道路及び交通の状況並びに当該特定自動運行用自動車の状況を映像及び音声により確認することができる装置
を備え、さらにその場所に特定自動運行主任者を配置する制度が定められています。
つまり、
1台の車ごとに運転手を置く制度から、遠隔監視を含む組織的な安全管理制度へ変わる
のです。
これは運送業界に相当大きな変化をもたらす可能性があります。
では、交通事故を起こしたら誰が救護する?
無人タクシーで最も気になる問題の一つです。
有人車で事故が起きた場合、道路交通法第72条では、運転者等に対して停止、負傷者の救護、危険防止、警察への報告を求めています。
ところが無人タクシーには運転者がいません。
そこで特定自動運行については、別の事故対応制度が用意されています。
道路交通法第75条の23第1項は、遠隔監視型の特定自動運行で事故が発生した場合、特定自動運行主任者に、
直ちに当該交通事故の現場の最寄りの消防機関に通報する措置及び現場措置業務実施者を当該交通事故の現場に向かわせる措置
を求めています。
さらに警察官への事故報告も必要です。
そして現場措置業務実施者が事故現場に到着した後は、道路上の危険を防止するために必要な措置を行います。
これも発想の転換です。
有人タクシーなら、
事故 → 運転手が車を止める → 救護する → 警察へ通報する
という流れでした。
無人タクシーなら、
事故 → 遠隔監視センターが把握 → 消防・警察へ通報 → 現場要員を派遣
という仕組みになります。
「運転手がいない」ということは、「人間の安全管理がなくなる」ということではありません。
むしろ、
車内にいた1人の運転手が担ってきた役割を、システムと複数の業務従事者へ分解する
制度だと言えます。
「遠隔監視」と「遠隔運転」は別物
ここも重要です。
特定自動運行では、人間が映像を見ていること自体は問題ありません。
しかし、その人が道路状況を見ながらハンドルやアクセルに相当する操作を遠隔で行うとなると話が変わります。
道路交通法第2条の「特定自動運行」の定義には、
道路、交通、車両の状況に応じて人が車両の装置を操作する場合は除く
という趣旨の規定があります。
ですから、
遠隔から監視・助言する
のと、
遠隔から実際に運転する
のは法的に同じではありません。
完全無人レベル4の制度は、「困ったら遠隔地の人が普通に運転すればよい」という単純な制度ではないのです。
タクシー側にも「特定自動運行保安員」という制度がある
ここまでは主として道路交通法、つまり警察・公安委員会側の規制です。
しかし商用タクシーであれば、当然に道路運送法側の規制もあります。
2023年4月、レベル4の自動運転を旅客自動車運送事業で使用できるよう、旅客自動車運送事業運輸規則なども改正されました。
自動運転車を使って旅客運送を行う場合には、事業者側で「特定自動運行保安員」を選任する制度が設けられています。
運転者がいなくなっても、
- 運行管理
- 営業所
- 点呼
- 車両管理
- 旅客の安全確保
- 緊急時対応
といった旅客運送事業者としての責任までなくなるわけではありません。
今回、日本交通が「現場における運行管理や営業所運営」を担当することになっているのも、この制度を見ると非常に理解しやすいところです。
自動運転の許認可 はひとつではない
行政手続の観点から整理すると、完全無人タクシーは概ね次のような複数の制度をクリアする必要があります。
- 自動運転車そのものが道路運送車両法上の安全基準等を満たすこと
- 道路交通法上の「特定自動運行許可」を公安委員会から受けること
- タクシーとして営業するため、道路運送法上の一般乗用旅客自動車運送事業として適法に運行すること
- 特定自動運行主任者、現場措置業務実施者、特定自動運行保安員、運行管理等の体制を整えること
という構造です。
つまり、
無人になったから許可が簡単になるわけではありません。
従来の、
「運転手の資格を確認する行政」
から、
「システムと事業者の安全管理体制を審査する行政」
へと規制の中心が移ります。
運転手がいないのに、料金は今のタクシーと同じ?
もう一つ気になるのが運賃です。
今回、日本交通は、自動運転タクシーについて、現在の日本のタクシーに適用されている認可運賃制度と同様の考え方で進める方針を説明しています。具体的な金額や計算方法はまだ公表されていません。
タクシー運賃は事業者が完全に自由に決められるものではありません。
道路運送法第9条の3では、一般乗用旅客自動車運送事業者の運賃・料金について国土交通大臣の認可を要求しています。
さらに認可基準には、
「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの」
を超えないことが規定されています。
ここで、無人タクシーならではの面白い問題が出てきます。
タクシー事業では運転手の人件費が大きなコストです。
完全無人になれば、そのコストは大きく変わります。
一方で、
- 高価な自動運転車両
- LiDAR等のセンサー
- 自動運転システム
- 通信設備
- 遠隔監視センター
- 特定自動運行保安員
- 車両清掃
- メンテナンス
- ソフトウエア更新
- 現場対応要員
など、新しいコストが発生します。
したがってサービス開始直後に、
「運転手がいないから半額にしなければおかしい」
とまでは言えません。
しかし、大量導入によって車両やシステムのコストが下がり、一人の遠隔監視担当者が多数の車両を管理できる時代になれば、話は変わります。
有人タクシーと無人タクシーで、本当に同じ原価構造を前提とした運賃制度を維持するのか。
これは今後の重要な論点になるでしょう。
最大の論点――これは「タクシー」なのか、それとも「レンタカー」なのか
例えばスマートフォンから車を予約します。
無人の自動運転車が、自宅まで迎えに来ます。
車に乗り込み、目的地を入力します。
自動運転で目的地まで移動します。
そこで利用を終了すると、車は自動的に次の利用者のところへ向かいます。
利用者から見れば、無人タクシーです。
しかし、契約を少し変えてみましょう。
「この自動運転車を1時間借ります」
という契約にしたらどうでしょう。
利用者が借りた車に乗り込み、自分で目的地を入力する。
1時間以内なら何カ所へ行っても構わない。
そして利用が終了すると、車は自動で営業所へ戻る。
これは、
自動運転レンタカー
とも考えられます。
現在のカーシェアも法律上は、自家用自動車の有償貸渡しというレンタカー事業の枠組みにあります。
道路運送法第80条第1項では、
自家用自動車は、国土交通大臣の許可を受けなければ、業として有償で貸し渡してはならない。
とされています。
しかし、同条第2項が重要です。
国土交通大臣は、
「自家用自動車の貸渡しの態様が自動車運送事業の経営に類似している」
場合には、通常のレンタカーとして扱わない余地を残しています。
つまり、
契約書のタイトルを「レンタカー契約」にしただけでは決まりません。
利用者が車そのものを一定時間支配して利用しているのか。
それとも事業者が車両を配車し、運行を管理して、目的地まで人を運ぶサービスを提供しているのか。
実際の事業スキームが重要になります。
自動運転で「タクシーとカーシェアの境界」が消えていく
これは今後、許認可実務でも非常に重要なテーマになると思います。
現在は明確です。
タクシーは、
「車が客のところまで迎えに来る」。
カーシェアは、
「客が車の置いてあるところまで行く」。
ところが自動運転になると、
カーシェアの車自身が客のところまで来る
ことができるようになります。
そこで思い浮かぶのが、例えばタイムズカーです。
タイムズカーは2026年8月に会員数400万人を突破し、全国約2万9,000カ所のステーションと6万8,000台を超えるカーシェア車両のネットワークを展開しています。運営会社のタイムズモビリティはカーシェアリングとレンタカーを主要事業としています。
現在は、
「利用者がタイムズカーのステーションまで行く」
サービスです。
しかし自動運転時代なら、
スマートフォンから予約する。
タイムズカーが無人で自宅前まで迎えに来る。
乗り込む。
目的地を入力する。
自動運転で移動する。
降りる。
車は次の利用者のところへ向かう。
というサービスも考えられます。
ここまで来ると利用者から見れば、
カーシェアなのか、レンタカーなのか、無人タクシーなのか、ほとんど分からなくなります。
もちろん、2026年9月現在、タイムズモビリティが無人タクシーへの参入を発表した事実は確認できません。現在公表されている中心事業はカーシェアリングとレンタカーです。
しかし制度上・事業上の将来像としては十分考えられます。
将来、
「タイムズカー、自動運転車による無人タクシー事業へ参入!」
というニュースが出ても、私は驚きません。
その場合、
レンタカー許可のままでできるのか。
道路運送法上の一般乗用旅客自動車運送事業になるのか。
既存のタクシー事業者と提携するのか。
特定自動運行許可の主体を誰にするのか。
遠隔監視センターを誰が運営するのか。
特定自動運行主任者と特定自動運行保安員をどのように配置するのか。
という、まさに「許認可設計」の仕事が必要になります。
参考記事:レンタカー業許可取得
自動運転時代、行政書士の仕事も変わる
自動運転社会になると、許認可がなくなるのではありません。
むしろ逆です。
これまで、
「タクシー事業許可を取る」
「レンタカー許可を取る」
という比較的明確だった業種区分が、
自動運転によって混ざり始めます。
これからの許認可実務では、
このビジネスモデルは、法律上何業なのか。
を最初に設計することが重要になります。
道路交通法。
道路運送法。
道路運送車両法。
公安委員会の特定自動運行許可。
旅客運送事業。
レンタカー事業。
そして自動運転システム。
これらを組み合わせながら、
「この新しいモビリティサービスを、どの許認可スキームで実現するか」
を組み立てていく。
AI時代、自動運転時代の行政書士には、単に申請書を書く仕事だけでなく、
新しい事業を既存の法制度につなぐ仕事
がますます求められていくのではないでしょうか。

